シマフクロウの河畔林復活と生態系サービス評価プロジェクト

アイヌ集落の守護神シマフクロウ(Blakiston’s fish cwl)

日本一規模の大きい北海道根釧台地の大規模酪農基地と資本集約型の遠洋漁業から地場産業としての沿岸、養殖型に転じたオホーツク海漁業であるが、原野の徹底的な草地化と飼育頭数増とが自然生態系(森林、土壌、水質)への負荷の増大を招き、生産活動が脅かされている。とりわけ表流水の硝酸態窒素汚染による飼育牛のヘモグロビン機能障害が問題となって久しい。他方、付加価値の乏しい原乳の大量生産、消費減による乳価の下落により酪農業は経営難に脅かされている。日本一の鮭遡上川西別川の汚染は、河口域の沿岸漁業を脅かしている。経済と環境の両面から、日本の食料生産基地は構造の転換を迫られている。
1994年、標茶町に発足した虹別コロカムイの会(舘定宣会長)は、隣接する別海町、弟子屈町などの地域住民(農、漁、町民)の協力により、「コタンコロカムイ」即ち狩猟採取の縄文文化の継承者アイヌの部落神シマフクロウの復活を図ろうと、生息圏の西別川流域で河畔林造りを自力で始めた。
成果は着実に実り、現在に到る21年間に約7万本の広葉樹を植樹、さらに年間を通して養魚場のサケ・マスを自由に捕獲させることで、シマフクロウのヒナ34羽が誕生、国指定天然記念物(絶滅危惧1A)、の生存を支えることとなった(環境大臣賞、毎日新聞・朝鮮日報社主催日韓国際環境賞受賞)。
「虹別コロカムイの会」が目指す「シマフクロウ100年の森づくり」活動は、北海道アイヌの生活圏だった摩周湖直下西別川の流域に「環境の三要素」即ち自然環境「環境の三要素」即ち自然環境、人間環境、文化環境が統合された持続可能な社会発展の原型を創造しつつある。北辺の厳しい自然環境に生きる、生命同志の共感に支えられた行動ではないだろうか。
2010年、標茶町の「虹別コロカムイの会」が、日韓国際環境賞を受賞したのを機に、早稲田環境塾は同会と協働し、表題のプロジェクトをはじめた。
塾は2011年、農水省・農林漁業政策研究所の申し出を受け、同研究所と共に河畔林の生態系調査、川沿い酪農家の河畔林用地への草地提供の可能性などの聞き取り調査を行った。さらに同年、虹別コロカムイの会の舘会長らも参加し、農水省で講演とシンポジウムを開催した。河口のアシの根元を円環状にくるむLimonite(褐鉄鉱)の採取と、分析(住友金属鹿島研究所)から河川の栄養源としての河畔林の機能を推定するなど,環境政策と農林漁業政策を統合した地域社会創成政策の可能性の実証研究を継続している。(『シマフクロウの森と海から明日の日本を構想する』A4版64頁参照。)
2011年には日本環境ジャーナリストの会と協働して、「生態系サービスの報道手法」をテーマに現場で取材した。さらに2011年~12年、三井物産環境基金の助成を得て「日本文化の伝承を通して展開する新たな生態系サービスの創出」―長期研究構想実現に向けての予備的検討を行い、研究報告書(吉川成美早稲田環境学研究所次席研究員、加藤和正塾生ら。A4版328頁 2013年に成果をまとめた。

アイヌ語でシレトク(地の涯)と呼ばれる知床。そこに隣接する「周辺」の根釧台地の環境変化の原因を、「中心」である東京の消費社会の動態と関連してとらえる視点が必要である。
家畜の穀物飼料を無制限に輸入し、食料自給率をOECD加盟国最下位の40%弱に低下させ、排泄物(窒素)で水質を汚染し、平然と食生活を続けている国策を改めたい。
TPPに加わった今、必要なことは東京への訪問者に「入都税」を平然と義務づけることではない。入都税と並行して酪農製品の消費者に「環境汚染税」を課し、水、土を維持するコストの支払いを求めるべきではないだろうか。
シマフクロウと河畔林の蘇生活動を介し、早稲田環境塾は日本農漁業の構造改革を求めていきたい。

環境との共生へ動き始めた大規模酪農地域

これら一連の社会変化を視野に入れ、西別川流域の別海町で、家畜排せつ物を燃料とし日本一の発電量を持つ「別海バイオガス発電会社」(三井造船と行政の協働)が2015年
9月10日から操業を開始した。周辺の農家では農水省の補助を得て、地域ぐるみで太陽発電への切り替えが急速に進行している。虹別コロカムイの会の河畔林造成に協働する農協
漁協、弟子屈、標茶、別海の3自治体は,河畔林の拡大が水質の浄化、鮭回帰率の上昇の一助となっていることを認識している。また清流の常緑沈水植物バイカモ(梅花藻)群生の
復活が放流鮭の稚魚に必須の生息環境となり、放流漁の回帰率の向上(現在5%強)の資源になっていることも認識している。
さらに生態系サービス機能を実感することにより、量から質、拡大成長路線から持続可能路線へ経営方針の転換を可能とする事例として位置づけている。
虹別コロカムイの会が播いた“世直し”のタネは、実体社会に確かな波及効果を及ぼしつつある。
早稲田環境塾はシマフクロウと河畔林(自然環境)の復活を、それなくしては社会活動が継続できない社会的共通資本(外部経済 宇沢弘文、2004年)としてとらえ、[TEEB](The Economics of Ecosystem and Biodiversity)の問題意識に基づく調査、研究を礒貝日月研究員を中心に進めている。

人工巣箱からヒナを取り出し、巣立ち間近いシマフクロウへのバンディングとメディカルチェック。(北海道内で生息している約140羽すべてのシマフクロウが対象に。)

人工巣箱からヒナを取り出し、巣立ち間近いシマフクロウへのバンディングとメディカルチェック。(北海道内で生息している約140羽すべてのシマフクロウが対象に。)

人工巣箱からヒナを取り出し、巣立ち間近いシマフクロウへのバンディングとメディカルチェック。(北海道内で生息している約140羽すべてのシマフクロウが対象に。)

人工巣箱からヒナを取り出し、巣立ち間近いシマフクロウへのバンディングとメディカルチェック。(北海道内で生息している約140羽すべてのシマフクロウが対象に。)

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