「環境日本学」を探求、実践する 早稲田環境学研究所 早稲田環境塾

文化としての環境日本学を

早稲田環境塾は2008年4月、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科のゼミナール「環境と持続可能な発展」(原剛教授担当)を実社会に展開するため創設された。学生、社会人が共に環境思想を学び、実践に移すことを目的としている。8期にわたる塾に延べ500人の塾生と90名を超す各界からの講師が参加している。(「第1-8期塾の内容」参照)

早稲田環境塾の活動目的は多くの事例研究、実践現場での活動成果とキーパーソンの生の証言、つまり一次情報に基づいて文化としての環境日本学の探求、実践を試みることである。研究、論文の対象にとどまらず、解決すべき社会問題として環境問題に取組む。
キーパーソンとは地域の伝統の中に、現在人類が直面している困難な問題を解く鍵を発見し、旧いものを新しい環境に照らし合わせて作り変え、そのことによって多様な発展の経路を切り開こうと努める人物である(市井三郎、1963)。

2011年3月11日、世界を震撼させた東日本大震災、連動した東京電力福島第一原子力発電所のメルトダウン事故は、被災地の自然、人間、文化の環境三要素を壊滅させた。日本社会にとっても座標軸の喪失体験は、旧状への復旧ではなく、近未来への世直しのためのキーパーソンの必要性を痛感させる。

歴史とは現在と過去の対話である。現在の意味は、孤立した現在においてではなく、過去との関係を通じてこそ明らかになる。過去を語りながら、現在から未来へと食い込んでいく、その先端に早稲田環境塾は立脚したいと願っている。人間の行動原理としての人文科学の社会性が問われている。

早稲田環境塾の開講。原剛塾長による初講「環境日本学を探求する」。

早稲田環境塾の開講。原剛塾長による初講「環境日本学を探求する」。

第一期 早稲田環境塾。大学、企業、NGO、ジャーナリズムから45名が参加。

第一期 早稲田環境塾。大学、企業、NGO、ジャーナリズムから45名が参加。

環境問題の根幹について、欧州は文化に関わるもの、米国では経済の随伴的な現象としてとらえてきた。日本はといえば、そのいずれでもなく、原則を欠いた対処療法に終始している。

反面で、日本は高度経済成長期の産業公害、公共事業による自然破壊、豊かになった生活がもたらす環境汚染、それらが複合した地球規模の環境破壊史の四段階を経る間に、環境・自然破壊と修復、創造の多様な経験、識見を多大な犠牲を払って蓄積してきた。

地球の温暖化が一例であるが、環境破壊の影響は、不安域から破局域をも視野に入れざるを得ない状況に到っている。2015年、夏の豪雨被害による保険金支払額は1000億円を超えた。「今後は気候の変動をふまえた保険料率や商品設定が必要になってくる」(鈴木久仁損保協会会長 9月17日記者会見)

今こそ歴史との対話を試みアジアの風土性と近代化がもたらした明暗の体験とを環境破壊にひきつけて考え、改革を実践する時ではないだろうか。私たちが培ってきた環境保護への知的認識、技術的成果を日本文化の価値体系と統合し、環境の哲学、論理と感性に裏付けられた「環境日本学」を探求、実践しよう。自己確認(アイデンティティ)を明確にしたうえで、国際環境連帯の時代の日本人が、普遍価値の実現へ向かう行動の原理を塾生の皆さんと共に探求したい。。

塾の協働プロジェクト「シマフクロウ100年の森づくり」の現場、オホーツク海のサケ(寒流魚)定置網でブリ(暖流魚)が大量に混獲されている。2015年9月11日北海道標津町サーモンパークで (左が鮭、右がブリ)

現場で実践に学ぶ

早稲田環境塾は「環境」を自然、人間、文化の三要素の統合体として認識し、環境と調和した社会発展の原型を地域社会から探求してきた。あごを引いて、暮らしの足元を直視し、現場を踏み、実践に学ぶ。

早稲田環境塾は、その目的を達成するため広く同志の参加を求め、次の手段を用い、それら相互の実践的触媒となることを目指す。

*環境問題に現場で取り組み、問題解決への成果を挙げるために、第9期以降の塾を開設し、市民・企業・自治体・大学との協働の場を設定する。
*環境ジャーナリズムを対象とする擁護、提唱報道(advocacy)、課題設定(agenda setting)及びキャンペーン報道(campaign)への協働 。
*広く学生の参加を求め、アカデミアによる活動の体系化、理論の創造、実証的な環境教育をめざす。
*実践の現場として①有機無農薬、生産者提携の原点、山形県高畠町和田のたかはた共生塾プロジェクト「青鬼農園」2か所約30㌃での耕作体験と農場に隣接する社会学の第一人者栗原彬立教大名誉教授の寄贈図書約6万冊を収蔵する「栗原文庫」、快適なログハウス群を結ぶ新晴耕雨読のライフスタイルの創造。

群馬県みなかみ町藤原(塾のフィールドワークの場)で開催した「日・中・韓NGO・ジャーナリスト・シンポジウム」

群馬県みなかみ町藤原(塾のフィールドワークの場)で開催した「日・中・韓NGO・ジャーナリスト・シンポジウム」

群馬県みなかみ町藤原(塾のフィールドワークの場)で開催した「日・中・韓NGO・ジャーナリスト・シンポジウム」

群馬県みなかみ町藤原(塾のフィールドワークの場)で開催した「日・中・韓NGO・ジャーナリスト・シンポジウム」

 

 

入会地上の原で取材する中国。韓国のジャーナリスト。活動家たち。

入会地上の原で取材する中国。韓国のジャーナリスト。活動家たち。

数式に解はあるか

「3・11と世直し」を課題に、環境への負荷を減らすために2つの数式の意味を考えたい。
I=P×A×T(米の人口学者Paul Earlickの式)
I=Environmental  Impact(環境への負荷)
A=Affluence(資源消費量)
T=Technology(制度改革を含む技術革新)

ただし英国の1人の幼児の資源消費量は、バングラディシュの幼児のそれの20人分に相当する。また東京電力福島原子力発電所事故にみる「技術の制御不能」にどう対処するか。)「技術が人間のコントロール下から脱け出して、自らの意思で動き、人間の方がその部品と化してしまう」(木田元「技術の正体」)技術文明の陥穽にどう立ち向うか。

物質的な幸せ=欲望/財 (日銀出身の宮崎銀行元頭取井上信一さんの仏教経済学)

物質的な利己心が肥大化する社会状況で、経済の成長が国策として合唱され続ける限り、脱原発エネルギー社会などはありえないだろう。 京都竜安寺のつくばいに刻まれた「吾唯足るを知る」の域は無理としても、欲望の質を変えることで財の価値を転換し、新たな経済の成長をはかることはできないだろうか。

早稲田環境塾は2008年から2015年に到る間に8期の塾を開催し、約400人の塾生が参加した。同時に社会の各セクターと協働していくつかのプロジェクトを継続して試みている。フィールドワークと協働プロジェクトの現場は、原塾長の取材体験と大学での理論研究に基づき設定された。

原剛塾長は1962年から毎日新聞社会部記者・デスク、編集・論説委員(現在は客員編集委員)として、日本と世界の環境破壊と修復の現場を半世紀にわたり取材している(1993年国連グローバル500環境報道賞受賞)。また1998年から2008年まで早稲田大学教授として大学院アジア太平洋研究科で「環境と持続可能な発展論」と同名のゼミナールを担当した(現在名誉教授)。

京都建仁寺での座禅体験と小堀泰厳管長の講義(第4期塾から)

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